pokotan_RXのブログ

適当にアニメのことを書いてると思います。

『VIVY -Fluorite Eye's Song-』がよくわかるお話の補足

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AIは、人類が幸福になるために作られた。
AIは、使命に準じるように作られた。
そしてAIは、心を学習するように命じられた。
果たしてAIは心を込めて歌うことができるのか?



2021年4月より全13話で放送されたオリジナルアニメ。
『Vivy -Fluorite Eye's Song-』
僕はこの作品の面白さを解説および考察する動画を作っていました。
動画内では「大変満足している」と言いましたが、まったく不満がなかったわけでもありません。
いくつか「ん?」と引っかかるところもありました。
今回はその部分を中心に捕捉を書きたいと思います。

 

https://www.youtube.com/watch?v=W9TQKT5bsZU

 


嘘が下手?
As you like my pleasureとは
SF考察 タイムリープの仕組み
「使命」という言葉に含まれた「嘘
どーでもいいこと
ラストシーン


◇嘘が下手?

フィクションというのはありえないことをしれっとやっちゃっていいものなのです。
たとえそれがSFであろうと大嘘こいていいんです。
あの『スターウォーズ』でさえ嘘ばかりなんです。
娯楽のために嘘で心地よく騙す。
それがエンターテイメントなんです。

 

なんとな~くなんですけど、この作品はやりたいことに対して正直すぎるのかな~、と感じることがありました。
その一例が第2話の倒壊するビルから隣のビルに飛び移るシーンです。
状況がよくわからなかったという意見をちらほら見ますよね。
恐らくは相川議員をぶん投げて、あとからヴィヴィが飛び移ったのでしょう。
人によっては相川議員を投げた後、ヴィヴィが一度戻ってから助走しなおしてるように見えたようです。

 

リアルに考えるならビルの倒壊する時間なんて、そんなに猶予はないのですから議員と一緒に飛び移るべきでしょう。
実際コミック版ではそうしていました。
ではなぜ二度手間とも取れる手順を踏んだのか?

 

月を背景に空を飛ぶ美少女という
構図を描きたかったんでしょうね。

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好意的に解釈するなら
「テロリストが議員の姿を目撃したら追ってくるだろうから、撤退の理由を作らなければならない。なので映さなければその手間が省ける。」
という理由もありそうですが……あれだけの騒ぎを起こして長居するメリットはないですから、暗殺失敗からの撤退で十分ですよね。

 

歌舞伎の見得のようにシーンの合間にベストショットを用意するのは、この作品の一貫した演出ですので一番見栄えのいいシーンを作りたいのはわかります。
ですがそこに至る過程が不自然だと引っかかりを感じますよね。
いっそのこと議員をぶん投げた後に逆走して、倒壊するビルのがれきの間を忍者のように跳んでいった方が良かったんじゃないですかね?

 

そうはならんやろ!
なっとるやろがい!

 

という勢いでしれっとフィクションしちゃってもよかった気がします。
戦闘プログラムを拒否したのに、どうしてそんな動きができるんだというツッコミが入るでしょうけど知ったこっちゃないです。

#余談ですが、これを流行らせたポプテピは偉大だと思う。
#これこそがフィクションの基本なのに昨今は野暮なツッコミが多すぎる(´・ω・`)

 

まあ、こういうのはあと出しだから言えることですけどね。
実際どのような思惑であの映像が創られたかはわかりません。
止むにやまれない事情で急遽変更したのかもしれません。
経緯はどうであれ、序盤でケチの付く引っかかりを作ってしまったのは痛手でしたね。
結果的に悪印象で語る人が目立つスタートになってしまいました。
SFはただでさえ面倒くさい奴が多いのにな(´・ω・`)

 

◇As you like my pleasureとは

オープニングテーマ『Sing My Pleasure』の冒頭の歌詞。
正直言うとよくわかんないこと言ってますよね。
ちょっと考えてみましょう。

 

As you like とは「好きなように」と訳される成句です。
ですが正確には

ex1
Draw as you like. 好きなように描きなさい。
ex2
May I eat? 食べていい?
As you like. 好きなだけどうぞ

といった感じに動詞を含めて初めて文章として成立します。
As you like my pleasure だと意味が分からないと感じるのは、この動詞が足りないからです。
これも情報不足ですね。
では「お好きなだけ」何をするのか?


my pleasure とは「どういたしまして」と訳される成句です。
正確には It's my pleasure だったものが省略されたものです。
直訳すれば「それが我が喜び」ですね。

ex3
Thank you for youe help. 手伝ってくれてありがとう。
It's my pleasure. その言葉が私の喜びです。

これだと堅苦しいので「どういたしまして」と訳されるようになったわけですね。
では As you like my pleasure のなかで略されている it's は何を指しているのか?

 


使命で目覚めた幸福から紡ぐいくつもの誇らしい記憶


と歌詞にあるように、この歌はAIたちの気持ちを歌ったものです。
であるなら彼らの喜びとはすなわち使命です。
その使命を果たすことを「どうぞ好きなだけ」と言っているのです。
なので As you like my pleasure を日常的な口語に訳すのであれば

「どうぞ何なりとご用命ください」

となります。
ちょっと考えればわかることですね。
こういう引っかかりはとてもいいです。
作品を考察するきっかけになりますからね。

 

これがわかると第6話のクライマックスでグレイスが歌う『Sing My Pleasure』がどうしてあんなに切ないのかがわかってきます。
グレイスはAIだから“As you like my pleasure”と言うことしかできなかったんです……。

 

◇SF考察 タイムリープの仕組み

僕の動画では「タイムリープ」という言葉を使いましたが、実は劇中でこの言葉は使われていません。
「未来から来た」としか言ってないのです。
SFでは記憶だけで時間を移動することを「タイムリープ」と呼ぶことが多いですが、この作品では不思議とこの用語を使いませんでした。
なぜか?

メンドクセーからだろうな(´・ω・`)

 

ひとたび用語を使ってしまえばその仕組みを説明する義務が発生します。
いや、本当はしなくてもいいと思うんだけどSF厨はうるさいので作り手としては触れたくないんですよね。
何度か見直して思いましたが、この作品にタイムリープの仕組みを説明する尺はありません。
「どこどこにねじ込めばいいだろう」という反論は来ると思いますが、そんな通り一遍の説明で納得しないからSF厨はウルセーって話なので、やっぱり尺はないんです。
そもそもこの作品はどのように時間移動をするかがテーマではないのですから、そんな尺を割く必要はありません。

ですが自分もそのうるさいSF厨のひとりです。
やっぱり気になります。

気になるなら考察するしかないですね(ニッコリ)


アラヤシキを使っているのはまず間違いないでしょう。
すべてのAIと無線でつながっているのですから。
そこから座標と時間を指定して送信したのだろうということは映像演出から想像できます。

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問題はどうやって時間を逆行するかです。
この世界のAIは陽電子脳とかいうロマンチックかつ不思議な装置を使っていることが公式サイトから知ることができます。
あらゆるAIのデータを保持するアーカイブもまた陽電子脳を使っているのでしょう。
なのでアーカイブ内で未来から過去にデータを送ることができればよさそうです。

 

シュタインズ・ゲート』でやってた粒子加速器を使ってうんたらかんたらという方法は、一度データを外に出してそれから受信するやり方なのでこの場合使えません。
外から来る謎のデータをアーカイブが受け付けないでしょうから。

 

陽電子γ線は表裏一体の存在です。
乱暴に要約すると陽電子と電子がぶつかるとγ線が生まれ、γ線が分子にぶつかると陽電子と電子が生まれます。
そしてγ線は一時的に光の速さを超えることができます。
これを利用してオンオフの信号を過去に送っているのです。
マツモトの時とヴィヴィの時で遡れる距離が違うのはパケット量の差が原因です。


え?なに?
γ線をどうやって超光速にしてるんだって?
さあ?
時間遡航装置が起動した後の世界は描かれていないから地球が爆発してるんじゃね?

 

爆発は冗談にしてもストレージ内だけで過去にデータを送信するもっともらしい理屈があればいけそうなんですけどね。
データの読み書きに使っているレーザーでポジトロニウムを高速回転させてとかも考えたけど、まともに考察しようとすると現実の壁にぶち当たります。
なんとなく納得できそうな胡散臭い理論がどうしても必要になります。
「ストレージ内だけの仮想のワームホールを作る」とかな。
つまりフィクションという名の嘘が必要不可欠なのです。
そういう嘘で心地よくだましてほしい。

 

繰り返しになりますがこの作品における時間移動はあくまでも舞台装置でしかなく、その理屈を語るのは主題から外れます。
なので「がんばったらできちゃった」で十分なのです。
けれど自分を含めた小うるさい奴を黙らせるパワーは、こういった細かいところの作り込みにあるのだろうなと思います。
それをわざわざ解説するのではなく、見ているだけで理解できるレベルにまで練り込まれていれば、この作品は名作ではなく傑作と呼ばれたことでしょう。

◇「使命」という言葉に含まれた「嘘」

ひとつのAIにひとつの使命。
劇中何度となく使われたこの言葉ですが、実はこれ嘘ですよね。
だって「人類の繁栄のためにAIは稼働する」という使命が先にあるんですから。
劇中で使われている「使命」は、本来「用途」と呼ぶべきものです。

 

正確には
「人類の繁栄のためにひとつの用途が与えられている」
と言うべきなのです。

 

メタ視点から解釈すると、わざとやってますよね。
使命と言い表すことでAIがあたかも一生懸命生きているように見せてるんです。
では劇中の人物からはどのように見えるのか?

 

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「私たち(AI)の人生に迷いはなくなったのです」と宣伝しているのはOGCです。
AIに対して「人生」という言葉を使っているようにAIを隣人として受け入れられるように誘導しているのは確かでしょう。
目的は何か?
さっと思いつくのは利権の確立でしょうね。
この時代のAIはすでに政治利用されるぐらいには存在価値があります。
AIの研究費も馬鹿にならないでしょうから、その利権を独占するためにも「我々はAIの幸せのためにやってますよ」というたいそう見栄えの良い広告で民衆を味方にしなくちゃいけないのでしょう。

 

されどAIのことを一番道具として見ているのはOGCなのです。
人間のように繕うのに物のように処理する。

 

AIはAIで命をなげうってでも使命以上のことをしようとします。
人間のように傍にいながら物のように消えていく。

 

垣谷が先生の葬儀で抱いた違和感はこういうところでしょう。
それはすなわち社会の歪みなのです。
実はこの男、AIというテーマの闇を一身に背負ったキャラだったのです。
#スピンオフとか見たかったな。

 

反AI思想はAIに立場を危ぶまれた者たちのデモであると同時に、社会の歪みに対して改革を促す側面もあったのかもしれません。
AIも人も「使命」という言葉に振り回されていたんですね。

◇どーでもいいこと

僕の動画を見てくれた人の9割9分9厘が気づいていないと思うけど、実はささらの首元にAIのアイコン(?)があります。
状況に応じて色とかも変えたけど、小さすぎたな(´・ω・`)

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◇ラストシーン

皆さんのご想像にお任せします。
アレコレいうのは野暮だろう……。

と本心から思うのですが1点だけ、喋りたいことがあります。
最後に登場した二人はオリジナルなのか?
アーカイブが消えたあとなのに二人の人格データは何処にあったのか?

 

マツモトは松本博士とトァクが共同開発した違法AIです。
型番が存在せず、マツモトのデータがアーカイブになかったのはそのためです。
そして修正史でも松本博士はシンギュラリティ計画を実行しようとしていました。
なので100年前に送信する前のマツモトが博士のストレージに残っているのです。

 

ヴィヴィはシンギュラリティ計画失敗時にタイムリープをしました。
恐らく大容量になるのでデコードする前にストレージにいったん保存することでしょう。
タイムリープを受信する側のヴィヴィは博物館のサーバに有線でつながっていました。
つまり博物館のストレージにはヴィヴィのデータがまるまると残ってる可能性があるのです。
デコードした後のヴィヴィのデータが残っているかどうかが気になりますね。

 

まずはデコーダに証拠隠滅のための消去プログラムが仕込まれていたかどうか。
緊急で組んだプログラムなので仕込んでいない可能性が高いです。
そもそも時間遡航でたどり着く先はAIの暴走が始まったあとなのだから、証拠とか気にする必要もないでしょう。

 

アーカイブが消えるときに一緒にヴィヴィのデータが消えないのかどうか?
AIとして活性化する前の圧縮データであれば、消滅を免れるでしょう。
このように大惨事のあとでもヴィヴィのデータが残っている可能性は十分にあるのです。

 

なのでラストシーンにいた二人は限りなくオリジナルに近い複製体であると考えます。
100年の旅をしなかったマツモトと、100年の旅をした後のヴィヴィが、また新しく関係を築いていく物語がここから始まるのです。

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